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生産性向上が製造業に与えるメリットとは?指標も紹介
最終更新日:2025.01.09 / 公開日:2025.01.09
生産性向上が製造業に与えるメリットは、主に次の3点です。
- ・利益増加とコスト削減につながる
- ・品質向上と競争力を強化できる
- ・人手不足に対応できる
製造業において生産性向上は、利益増加や競争力強化などの多くの理由から、重要な課題です。
しかし、その実現には、具体的な指標や改善手法を把握し、課題を明確化する必要があります。
昨今、日本の製造業では、労働力不足や業務効率化への関心が高まり、これらの問題に対応するための新たな技術や取り組みが注目されています。
そこでこの記事では、製造業における生産性向上をテーマに、基礎知識から役立つツールまで、わかりやすくご紹介します。
目次
製造業における生産性向上の重要性
製造業において生産性向上は、収益性や競争力を大幅に向上させる鍵となります。
なぜ製造業で生産性向上が必要なのか
製造業で生産性向上が必要な理由は、大きく以下の3点です。
労働力不足へ対応するため
少子高齢化が進む日本では、製造業における労働力不足が深刻化しています。
特に、熟練工の引退や新規人材の不足は、生産ライン全体の効率性に大きな影響を与えます。
こうした状況下で、生産性向上は単なる選択肢ではなく、持続的な成長を実現するための必須課題です。
コスト削減と利益向上のため
生産性の向上は、製造コストの削減に直結します。 同じリソースでより多くの製品を生産できれば、コストが削減され、利益率が向上します。
競争力の強化
グローバル市場での競争が激化する中、日本の製造業が生き残るためには、高品質かつ低コストな製品を、迅速に市場へ供給する必要があります。
そのためには、生産性向上が不可欠です。
生産性の種類
生産性にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる側面からアプローチすることが重要です。
労働生産性
労働生産性とは、労働者1人あたりが生み出す付加価値や製品量を指します。
労働生産性を向上させることで、限られた人材リソースでも最大限の成果を得ることが可能です。
資本生産性
資本生産性とは、機械や設備、資本の使用効率を示します。
資本生産性を高めることで、設備投資のリターンを最大化できます。
全要素生産性(TFP)
全要素生産性(TFP)では、労働力や資本だけでなく、技術やイノベーションといった要素も含めて総合的な生産性を評価します。
全要素生産性向上には、技術革新や新しいプロセスの導入が不可欠です。
生産性向上がもたらすメリット
製造業における生産性向上は、単に効率を改善するだけではなく、企業全体の競争力や持続的な成長を支える重要な要素です。
生産性向上が具体的にどのようなメリットをもたらすのか、「利益増加とコスト削減」「品質向上と競争力強化」「人手不足対応」の3つの視点から解説します。
利益増加とコスト削減につながる
生産性の向上により、同じリソースでより多くの製品を生産することが可能になります。 これが製造原価の低減や付加価値の増加に直結し、利益率を向上させる大きな要因になります。
■コスト削減の具体例- ・エネルギーコストの削減...
IoTセンサーで設備の稼働状況をリアルタイムで監視、不要なエネルギー
消費を防止。 - ・在庫管理の最適化...
AIを活用した需要予測により、余剰在庫や欠品リスクを回避。
品質向上と競争力を強化できる
生産性向上は、生産工程の標準化やデータの可視化を通じて品質管理の精度を高める効果もあります。特にAIやIoTを活用することで、不良品の早期発見や再発防止が可能になります。
そうして高品質な製品を安定的に生産することで、顧客からの信頼が高まり、競争優位性が確立されます。 また、生産性が向上すればコスト競争力も高まり、価格競争にも柔軟に対応できます。
人手不足に対応できる
日本の製造業が直面する最大の課題の一つが労働力不足です。少子高齢化により労働人口が減少し、多くの企業が人材確保に苦労しています。
生産性向上は、この問題に対する有効な解決策となります。
ロボットやAIを活用して単純作業を自動化し、人材不足を補完したり、遠隔操作や監視システムを導入し、少人数での管理を実現したりすることが考えられます。
デジタル技術を活用することで、作業員の負担を軽減し、安全性も向上します。これがひいては、従業員の満足度向上や離職率の低下にも寄与します。
製造業で生産性が低下する主な原因
製造業における生産性の低下は、企業の収益性や市場競争力に深刻な影響を及ぼします。
生産性向上を実現するためには、まず生産性が低下する原因を正確に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
本章では、「コミュニケーション不足」「業務の属人化」「設備の老朽化と技術不足」の3つの主要な原因について解説します。
コミュニケーション不足
製造業では、複数の部署や現場が連携して業務を進める必要があります。
しかし、情報共有が不十分だと、生産計画の遅れやミスの発生、在庫管理の不一致など、多くの問題が発生します。
業務の属人化
業務の属人化とは、特定の社員にしか業務の詳細がわからない状態を指します。
特定の担当者が退職や異動した場合、業務が停滞し、生産性が著しく低下するリスクがあります。
設備の老朽化と技術不足
老朽化した設備や機械は、生産性の低下だけでなく、不良品の増加やメンテナンスコストの増大といった問題を引き起こします。
また、新しい技術やデジタルツールを活用できる技術者が不足している場合、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展が遅れてしまいます。
製造業における生産性向上の具体的な手法
製造業における生産性向上は、単なる業務効率化にとどまらず、企業の収益性向上や競争力強化に直結する重要な課題です。
ここでは、製造業で生産性向上を実現するための「業務の可視化とデータ活用」「最新技術の導入」「設備とシステムの最適化」の3つの具体的な手法について解説します。
業務の可視化とデータ活用
生産性向上を実現するためには、業務プロセスを可視化し、ボトルネックや無駄な工程を明確にすることが不可欠です。
製造現場では、工程が複雑化しやすく、どこに課題があるのか把握しにくいことが多々あります。
たとえば、IoTデバイスやセンサーを活用して、設備稼働率、在庫状況、不良品率などのデータを収集・分析することで、データに基づく精緻な意思決定が可能になります。
最新技術の導入
最新技術の一つであるIoTを活用することで、設備や機械、在庫の状態をリアルタイムで把握し、最適な稼働状況を維持することが可能です。
また、AIや機械学習アルゴリズムを活用することで、生産プロセスや品質管理の高度な自動化が可能になります。
製造業では、デジタルツイン技術も注目されています。
デジタルツインとは、実際の生産設備やプロセスをデジタル上で再現し、シミュレーションする技術です。
デジタルツインの実現により、設備の最適な稼働条件や潜在的な問題を事前に予測・解決できるようになります。
設備とシステムの最適化
老朽化した設備やシステムは、故障やトラブルの原因となり、生産性低下の要因になります。生産性向上のためには、定期的な設備のメンテナンスやアップグレードが不可欠です。
また、製造業務に関わるシステム(ERPや生産管理システム、在庫管理システム等)を統合し、情報の一元管理を行うことで効率的な運用の実現も重要です。
製造業における生産性向上の指標
製造業における生産性向上は、単に業務を効率化するだけではなく、具体的な指標を用いて効果を測定し、改善を継続的に進めることが重要です。
ここでは、生産性向上を評価する為の「定量的な指標と測定方法」を解説します。
定量的な指標と測定方法
定量的な指標の代表として、「労働生産性」「設備生産性」「在庫回転率」「全要素生産性(TFP)」について、測定方法をご紹介いたします。
労働生産性
労働生産性は、労働者1人あたり、または労働時間1時間あたりがどれだけの付加価値や製品を生み出せたかを示す指標です。
■労働生産性計算式
労働生産性=生産物の物量÷労働量
労働生産性を改善するには、作業の自動化や標準化、スキル向上のためのトレーニング、無駄な作業の排除などが有効です。
設備生産性
設備生産性は、機械や設備がどれだけ効率的に稼働しているかを示す指標です。
■設備生産性の計算式
設備生産性=付加価値÷有形固定資産
労働生産性の改善策は、定期的なメンテナンスの実施や、設備の最適な稼働スケジュールの設定、新しい設備への投資などです。
在庫回転率
在庫回転率は、在庫がどれだけ効率的に消費・生産されているかを示す指標です。 在庫の過剰や不足は、コスト増加や生産の遅延を引き起こすリスクがあります。
■在庫回転率の計算式
在庫回転率=商品の売上金額(1年間)÷平均在庫金額
在庫回転率を改善する方法として、需要予測の精度を向上したり在庫管理システムを活用したりなどの方法が挙げられます。
全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)
全要素生産性(TFP)は、労働力や設備、資本といった全ての生産要素を考慮し、総合的な生産性を評価する指標です。技術革新やプロセス改善が直接影響します。
■全要素生産性(TFP)の計算式
全要素生産性=全要素生産性×(資本投入量)α×労働投入量β
※αβは、2つの投入がそれぞれ生産に対して占める割合(α と β はそれぞれ K と L に対する割合)
全要素生産性(TFP)を改善するには、技術革新の導入(AI、IoT、デジタルツインなど)や、作業プロセスの見直しと標準化、組織全体での生産性向上への意識改革などが有効です。
製造業における生産性向上のポイント
製造業における生産性向上は、単なる技術やシステムの導入だけで達成されるものではありません。
経営層の明確な目標設定、従業員のスキル向上、そしてデジタル技術の導入と現場対応力のバランスが重要です。
ここでは、「目標設定と進捗管理」「従業員スキルアップ」「デジタル技術と現場対応力のバランス」の3つのポイントについて解説します。
目標設定と進捗管理を行う
まずは、目標設定と進捗管理を行うことが重要です。
明確な目標の設定
生産性向上を成功させるためには、明確で測定可能な目標設定が不可欠です。
曖昧な目標では、進捗管理が困難になり、改善の効果も見えにくくなります。
- ・短期目標...月間の不良品率を10%削減する。
- ・中期目標...生産ラインの稼働率を20%向上する。
- ・長期目標...生産コストを30%削減する。
KPI(重要業績評価指標)の設定
KPIを設定し、定期的に進捗を測定・評価することで、改善ポイントや課題を可視化できます。
■よく使用されるKPI- ・設備稼働率(OEE)
- ・労働生産性(生産量/労働時間)
- ・在庫回転率
定期的なレビューと改善
定期的に進捗確認し、目標達成に向けた修正や改善策を実施することが重要です。
従業員のスキルアップを図る
従業員のスキルアップも、生産性向上には重要な要素となります。
デジタルスキルの向上
現代の製造業では、デジタル技術を活用するスキルが不可欠です。
従業員がデジタルツールやシステムを効果的に使いこなせるスキルを習得することが、生産性向上の基盤になります。
- ・定期的な社内研修やトレーニングの実施。
- ・外部専門家によるスキル向上セミナーの開催。
- ・eラーニングプラットフォームを活用した自習環境の提供。
多能工化の推進
特定業務だけでなく、複数の業務を担当できる「多能工」の育成が、生産性向上に貢献します。
■多能工化のメリット- ・柔軟な労働力配置が可能。
- ・生産ラインの停止リスクが低減。
- ・労働者の業務満足度が向上。
現場リーダーの育成
生産現場では、チームを効果的に管理・指導できるリーダーの存在が重要です。
現場リーダーを育成することにより、作業の効率化やコミュニケーションの改善が図れます。
デジタル技術導入と現場対応力のバランスを取る
デジタル技術の導入は重要ですが、製造担当者の対応力が問われます。
デジタル技術の有効活用
IoT、AI、ビッグデータ解析など、デジタル技術を導入することで、生産現場の可視化やデータ駆動型の意思決定が可能になります。
■デジタル技術の活用例- ・IoTセンサーによる設備のリアルタイム監視。
- ・AIによる品質管理と不良品検出。
- ・ビッグデータ解析による需要予測と在庫最適化。
現場対応力とのバランス
技術導入だけではなく、現場作業員が技術を適切に活用できる環境を整備することも重要です。
■現場の対応力を付ける方法- ・技術導入に伴う研修の実施。
- ・現場スタッフとの密なコミュニケーション。
- ・トラブル時の迅速な対応策を確立する。
持続可能な改善サイクルの構築
PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを構築し、継続的な改善活動を行うことで、生産性向上を持続させることができます。
まとめ
製造業における生産性向上は企業の競争力を強化し、持続的な成長を実現するために不可欠です。
生産性向上は一度の施策で達成できるものではなく、継続的な改善サイクルが不可欠です。 デジタル技術や適切な指標を活用し、現場と経営層で連携し、持続可能な生産性向上を実現しましょう。