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バンドギャップとは?物質による違いとワイドギャップ半導体の特徴
最終更新日:2022.01.13 / 公開日:2022.01.13
半導体はバンドギャップ(禁制帯)を利用することにより、電気誘導のコントロールを行っています。電圧をかけると電気が流れ、止めると電気が流れなくなるのはこの仕組みがあるからです。また、近年ではバンドギャップの特性を利用し、耐久性を高めたワイドギャップ半導体なども活用されています。バンドギャップがどのようなものかを、詳しく見ていきましょう。
バンドギャップとは?
バンドギャップは、広義の意味だと「電子が存在できない領域の幅」とされます。一方、半導体の場合には「価電子帯の上部から伝導帯の下部までのエネルギーの差」と言われます。以下で、バンドギャップに関する基礎知識をご紹介します。
まずは原子の基本をおさらい
バンドギャップを理解するためには、はじめに原子の構造を理解することが必要です。以下、分かりやすく概略を解説します。
原子核の周りには電子が存在します。いわゆる原子軌道というもので、内側から順にK殻、L殻、M殻、N殻...と呼ばれています。それぞれの殻に入る電子の数は決まっており、規定の数量を超えた際には別の殻へ電子が移動します。また、殻が埋まるのは通常、内側からです。つまり、K殻が規定量の電子で満たされた場合にはL殻へ。L殻が満たされたらM殻という順に、殻に電子が埋まっていきます。
この場合、電子が持つエネルギーは外側のほうが高くなります。なぜなら、内側で安定している電子よりも、移動ができる電子のほうが活発になるからです。
内側のエネルギー帯には「価電子帯(Valence Band)」という名称が付けられています。一方、外側のエネルギー帯は「伝導体(Conduction Band)」と呼びます。それぞれをもう少し正確に定義すると、以下のような説明になります。
●価電子帯:原子間の化学結合へ寄与する価電子によって満たされたエネルギー帯(バンド)
●伝導帯:電気伝導に寄与する自由電子を持つエネルギー帯(バンド)
伝導帯と禁制帯(バンドギャップ)
ここからがようやくバンドギャップの解説です。 電子核のなかには、伝導体と価電子帯との間に空白が生まれるものがあります。端的に言うならば、この幅がバンドギャップの大部分です。 バンドギャップには殻がないため、電子は存在できません。電子が存在できない領域を超えて移動するためには、それに見合うエネルギー(電圧や熱など)が必要になります。つまり、バンドギャップが非常に大きいことは、「電気を流すために莫大なエネルギーを要する=電気が流れにくい」という意味になるのです。一方、バンドギャップがほとんどないのなら、「微量のエネルギーしか必要ない=電気が流れやすい」ということになります。 なお、バンドギャップはeV(エレクトロンボルト)という単位で表されます。たとえば、半導体の材料としてよく用いられるケイ素(Si)のバンドギャップは約1.2eVです。 また、より正確に言うと、バンドギャップとは「価電子帯の頂上から空の伝導帯の底までのエネルギー準位(エネルギーの差)」のことです。そのため、上記の数値は空白の値を示しているのではなく、「価電子帯の上部から伝導帯の下部までのエネルギーの差」であることにご注意ください。
フェルミ準位で見るバンドギャップ
バンドキャップに関連する基礎用語として、フェルミ準位についても簡単に解説をします。 すでに解説したとおり、電子は内側の殻から埋まっていきます。これは言い換えると、「内側のエネルギー帯には電子が存在する確率が高い」ということです。さらに、「外側のエネルギー帯には電子が存在する確率が低い」とも言えます。 その確率を踏まえ、価電子帯の底を100%とし、伝導体の最上部を0%とすると、その中央には電子がいる確率50%の準位が存在することになります。この準位のことをフェルミ準位と呼びます。 フェルミ準位は、次の項における重要なポイントになりますので理解しておきましょう。
物質ごとのバンドギャップの違い
バンドギャップの概要を掴んだところで、次は具体的な物質ごとの違いについても見ていきます。こちらでは「導体」「絶縁体」「半導体」の3種類に大きく分けて解説します。
導体
導体とは電気が流れやすい金属系の物質を指します。具体的には、鉄、銅、銀、金、アルミニウムなどが挙げられます。ここでは分かりやすいよう、金属を例にして説明をします。 金属は価電子帯と伝導体がくっついている状態です。これを正しく表すなら、バンドギャップがなく、フェルミ準位がエネルギー帯の中にある状態と言えます。さらに、価電子を含むエネルギー帯には空き準位が存在しているため、価電子はそのまま伝導電子になります。 少し難しい話となりましたが、つまり金属はバンドギャップがほとんどないため、電子が移動しやすい、という意味です。一方で、電流を止めるのには不向きである、という見方もできます。
絶縁体
ガラスやゴム、油など。電気をほぼ通すことのない物質を絶縁体と呼びます。こちらは導体と異なり、価電子帯と伝導体が大きく離れています。つまり、バンドギャップが大きい状態です。また、フェルミ準位もバンドギャップのほぼ中央に存在することになります。そのため、よほど大きなエネルギーがないと電子が移動できません。なお、強い電圧がかけられた場合に絶縁状態を保てなくなる現象を、絶縁破壊と呼びます。
半導体
電気伝導が起こる導体と、電気伝導をほとんど起こさない絶縁体。その中央に位置するのが半導体です。ハンドギャップはあるものの、絶縁体ほど大きくない、というのが特徴になります。 ハンドキャップがあるため、そのままの状態では電子が移動しません。しかし、エネルギーを加えると、価電子帯の電子の一部が伝導体へと励起(※)され、微量の電気伝導が起こります(p型)。また、価電子帯から電子が励起すると、そこに空の殻が発生します。するとそこに隣り合う電子が移動し、結果として電気伝導が起こります(n型)。 ただし、フェルミ準位の位置については半導体の種類によって異なります。たとえば真性半導体の場合は、フェルミ準位がバンドギャップの中央に位置しています。一方、不純物を添加したn型半導体は伝導体寄りに、p型半導体は価電子帯寄りにフェルミ準位が位置します。 これはつまり、真性半導体に比べて、p型やn型は少ないエネルギー量で電気伝導を起こせるということです。実際に、高純度の真性半導体は絶対零度の状態だと電子の伝導帯に励起がなされず、電気伝導も起こりません。 ※原子や分子が外部からエネルギーを与えられ、低エネルギー状態から高エネルギー状態へと移ること
ワイドギャップ半導体とは?
半導体のなかには、バンドギャップを活用することで絶縁破壊電界強度を高めている製品があります。これをワイドギャップ半導体と呼び、さまざまな製品で活用が進んでいます。
ワイドギャップ半導体の特徴
物質には、最大絶縁破壊電界強度という数値が定められています。これは、電解を物質にかけた際に、物質が絶縁破壊を起こす寸前の限界値です。最大絶縁破壊電界強度が高いということは、物質としての耐久性が高いということにもつながります。 バンドギャップは、この最大絶縁破壊電界強度を高めることにつながります。たとえば、バンドギャップが1.12eVのシリコンの絶縁破壊電界強度は0.3 MV/㎝です。一方、バンドギャップが3.39eVの窒化ガリウム(GaN)の絶縁破壊電界強度は3.3 MV/㎝と大きな差があります。 つまり、窒化ガリウムで作られた半導体はシリコンに比べて最大絶縁破壊電界強度が高くなり、たとえば高温動作にも耐えられるといったメリットがあります。
ワイドギャップ半導体の代表例
先にご紹介した窒化ガリウムは、ワイドギャップ半導体の代表例です。そのほか、炭化ケイ素またはシリコンカーバイド(SiC)なども、近年では注目を集めています。 たとえば、高耐久が求められる鉄道車両用のインバータには、シリコンカーバイドが使用されています。これはシステム要件に合わせて電力を直流←→交流へ変換したり、直流電圧の昇圧や高圧、交流の周波数の変換をしたりといった機能を持つ電力変換デバイス(パワーデバイス)です。
半導体作りに欠かせないバンドギャップへの理解
今回はバンドギャップの仕組みについて、大まかに説明をしました。半導体は、電気を通す・通さないをコントロールできる点が特徴であり、それによってさまざまな動作制御が行えます。バンドギャップについて理解をしておくと、よりその仕組みを把握できるでしょう。